考えごと

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ここに座ったからといって
必ずなにかを考えている というわけでもない
それなら車窓の外 風景が流れていくのを眺めたら
なにかを考えつく というわけでもない

あ あの雲 ドーナッツのかたち

というような思念より もっともっと
どうでもいいもの
それこそかたちのないもの
時間も空間も 渾然とした
身も世もないようなことをむしろ
意識の中で追いかけている

影ふみよりも実体のない作業 こころの動き

他者の思念を追う トレースするかたわらで
自分の意識の流れを見失いかける

終わらないダンスのステップのように
そっと暴走する思念を
言葉では掬いあぐねて
キーボードを打ちあぐねて

それではここまで と 
目配せをすることもできず
同じ曲が何度も部屋を流れて

よしなしごとばかりに思いをはせて
部屋の外のすこし癇に障る話し声を
聴くともなく聴きながら

日は傾き月は満ち

いつかわたしはあなたのことを忘れてしまうかも
あなたはとうにわたしのことを忘れているかも
あんなに心通った と感じた瞬間があった
そんな気がしたのに それでも
現にこんなにかけ離れているのに 平気で生きている

むかしだったら思うことすら苦しかった
そんなことを 静かに考える

記憶の所在の不確かさ
自由
がんじがらめの 所有に似た愛情

思念のフィールドにモザイクのように散らばっているのを
眺めるとも眺めながら
ふっと届くメールの着信の振動で
また現実世界に引き戻される 宵

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もっと広いもの 大きいもの

盛りだくさん 非日常な土日を過ごして
身体は雨の名残か すこし重たいけれど

はっと視界が開けて
幕が切って落とされて
新しく何かがはじまる そんな 心持ち

今までの古い箱 古い形
かくあれ と思い込んでいたもの
こうあってほしい と思われている と
これも 思い込んでいたもの

捨てる でも 打ちやる でもなく
そっと置いて 通り過ぎる

愛情 というもの
おそらく最初からこうであれ と
型を 行き方を すべて指し示す
そういうことではなくて

たどり着く極北の一点
そこまでの行き方は自由なはずだ

広くて大きくて自由なものに触れる週末
この先 これからも
正しいときに正しい場所にいられますように
夢見てる未来へ飛び込む一歩を
踏み出す力と 出立の餞のことばを

週末めぐりあったすべてのひとからいただいた

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ひとめぐり

新月の午後に引っ越しをして
明日は満月

月が満ちて 時がひとめぐり

どこまでも 本棚の隅の一冊までもが わたし で
目覚めて一瞬どこにいるんだろう とはっとする
旅先の朝のように すべて未知で異質なものとで
構成されている ささやかな 部屋

日々暮らすということ
誰かを なにかを いとおしく思うこと
夕暮れを 突然の雨を うつむいた横顔を
うつくしいと感じること

懐かしく 新しく 繰り返し 繰り返し

昨日と切断されて生成される今日を
また拾い集めて つなぐように

去った友の面影も
遠くの友の消息も
そこかしこに感じられる
川べりの町での Life

メリーゴーラウンド パレード それとも サーカス
涙しつつも
苦い笑いを噛みしめつつも
そこにある歓喜 そして深い喪失を味わいながら

どんな日であったとしても
続くのです 続けるのです

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ほんの数百メートル

引っ越しは新月の5日と決まる
移動距離は数百メートル
駅を背にしていままでの帰路 手前で
ふっと右に曲がり 砂利道を少し入れば
あたらしい小さな部屋

ふしぎなきっかけとふしぎなご縁に誘われて
やってきたちいさな駅
広い広い 階下からこどもの声がする部屋で暮らした
2年弱の日々は 言い尽くせないほどの記憶に満ちている

旅先で宿を替えるように
おおきなザックだけで移動する というわけには
まったくもっていかないけれど
おおきな川までほど近いこの町に吹く
5月 初夏の風と ふりそそぐ陽射しは
もうだいぶまえに訪れたインドの
バラナシでの日々をよみがえらせる

長居したあの町のあの宿から川までの距離と
いま住む町に流れるおおきな川までの距離は
ほぼ等しく
陽射しに目を細めてうつむきながら歩けば
同じくわたしの両足がわたしを川まで運ぶ

遠いあの灼熱の日々と
この町で暮らした人々の記憶と
綿々と血肉を受け継いでいまここにあるわたしの身体とが
ときおり交錯して なつかしい調べを奏でればいい

そうして遠近の気配に耳をすませるようにして
なにかの訪れを待ちながら
またはじまる ここでの暮らし

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Baby It's You

きみだけがわたしのこころのドアをたたく
ほかに楽しいことはたくさんあって
きみの不在はわたしを傷つけず
今日も一日暮れてゆくのに

Baby It's You

浮かんだのはメロディでも
印象的なリフレインでも歌詞でもなく
ただ Baby It's You
帰路歩みを進める駅のコンコース
給料日後の金曜日 浮かれた空気のなかで
すとんと落ちてくることばは Baby It's You

はじまりとおわりは
ウロボロスのように
とけて混ざるトラとバターのように
特定できずとりちらかりおちていく

はじまりを何かに帰するのは無駄だ
きみのまなざしも
見つめ返したわたしも
触れた手も
触れられた手も
ミシン目で切り離すように可分ではなく

いつからか代替不能になる
なぜかしら誰でもかまわないわけじゃなくなる
恋のようで恋でもない
名付けえぬまま宙に浮かび
落ちてきたことばが

Baby It's You

いまきみはここにいないから
テーマパークのいたずらな風船のように
この週末はずうっと
この Baby It's You な気分を
浮かべておこう 消えてしまうまで

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一年とすこし

このブログも一年が経過
議論も論争も引用も写真もさしてなく
淡々と ときに暗く
ときに酔っぱらって
ときに人恋しさを

なんだかあんまり明るくもない気がしますが

大雑把でのんきなのもすてきだけど
雑じゃない話し方をしたい
雑にことばをあつかうのは
誰かの仕事であってわたしのそれ ではない

嘘もつけるし ひとを傷つけることもできるけれど
いかんともしがたい心の奥底を掬い
涙を誘うことも 涙を乾かすこともできる
ことばというもの その力と美しさを
わたしは静かに信じていて
できればそのことばかりを考えていたいのです

風光る春の中でも
降り止まぬ雨の中でも

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朽ちて水に還るとき

久しく海岸を歩いていない
ふと眺めた雑誌の特集記事で
20年以上前に訪れた
千葉の大原の地図を目にして
そのとき行けなかった砂浜のことを思う

わたしが魚だったら
生を終えた瞬間 またはその少し前
傷ついて弱った瞬間に
食物連鎖の中に放り込まれて

朽ちる前に
水に還る前に
どこかの胃袋におさまるだろう

焼かれ埋められる肉体
朽ちて静かに地中で
どこかに還っていくのだろうか

大昔読んだSF漫画では
未来からやってきた登場人物のひとりが
肉体をある種のエネルギーと化して
地球の消滅を遅らせる
その代償は片腕一本

腕一本で済んだ

という台詞もあった

わたしという存在を
放り出すように
差し出すように
最後のときに
その前に

自分のことを勘定にいれない
賢治の世界の登場人物のように

たとえば大原の海辺に立ったら
なにか想起することはあるだろうか
海とわたしと 風は吹き抜け
同じときは二度とない

そんな瞬間に なにかおおきなものに触れて
わたしは自意識をどこかに飛ばしてみたい と思う

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小さな旅

宅急便の再配達 さっき電話があって
きょうは来てもらえないことになり
家で待っていたのが拍子抜け

そんなとき かけっぱなしのラジオから
懐かしいNHKの「小さな旅」のタイトル曲が
流れた なにもかも好きなメロディの展開
ふと思いをはせる

さっきここ半年くらいの日記を読み返してた
いろんなことがあって いろんなひとに会った
記憶にあるだけで3回大泣きした
しあわせなことに 3回ともひとりじゃなかった

来月には移動距離 笑っちゃうくらい短い
引っ越しをする
それは昨日決まった出来事で
明日からの一週間は仕事で忙殺される予定

だから今宵はエアポケットのような
ここしばらくで最後のぼんやりしたひとりの時間

もうすぐ小さな旅がはじまる
コンパクトに荷造りして さすらおう
それはこの半年ほどの間に
切に願ったこと

ものごとが流れはじめたら
もう泣かないでいられるのかな
それともうれし泣きの日や
ひとり唇を噛んで涙する日もあるのかな

突然肩に置かれた手のぬくもり
涙したときに傍らにいてくれたこと
おせっかいなんだか 親切なんだか
気が向けば心配してくれること

この半年ほどライナスの毛布みたいに
時にこころをあたためてくれたひとのことも思い出す
わたしのこころも移り変わるので
もういてくれなくても大丈夫 と思う日もあれば
切にここにいて と思う日もある

旅の途上で会うひとはいつか別れてゆくひとだ
それでもいまここ に一緒にいる という
圧倒的な事実 そして体感

捨てるのはたやすく
こころを閉ざすのもかんたんだ
手に入れるのでもなく
よりかかるのでもなく
会えたら一緒に笑っていることはできるかな

遠近の友と たいせつなひとたちと
まだ見ぬこれからめぐりあうひと
そして願いと この先の未来と

小さな旅に出る
約束したほうへ 願ったほうへ そして
呼ぶ声のするほうへ

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いちご畑よ永遠に


ひさしぶり 一ヶ月近く更新していなかった
元気でしたが 思い出せないくらい
いろいろなことはありました
いいとも悪いともいいがたい
リアルな出来事

さて いわずと知れた大名曲

この曲を知ったのとほぼ同時期
身近にいたひとに 心から油断して
なついていた
しゃべり方 口癖が似るほどに

もう確かめるすべもないけど
このひとがおばあさんが丹精してた
いちご畑について語ったら
聴いていたひとりが揶揄するような
ちゃかすようなことを口にした

このひとは大人で
わたしを含めオーディエンスは子供

本気で怒ったこのひとを見たのは
後にも先にもこのとき限り
驚いて固唾をのんで
わたしは学んだ

そのひとが大切にしているもの 記憶を
邪険にあつかってはいけないのだと

その後うっかり口を滑らせたり
何度も失敗したけれど
いまでも心には刻まれている

あなたの大切なものを わたしは大切にするよ
それが愛だろう

愛をためさないこと
そして
まっすぐ怒ること
そして
それでも大切なものについて語ることをやめないこと

どんな嵐やどんな悪意も
くつがえすことはできない
うつくしいものがきっとあって
そっとわかりあうことができる

ただ わかってるよ とことばにすることはできない
伝えるすべも限られている

あのときのいちご畑が永遠でありますように
怒りが徒労で終わりませんように
伝わる確証はなにもないけれど

あなたが大切にしているものなら
わたしにとってもそれはかけがえのないものなのです

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不在

会えないのはつまらないけど
すこしだけほっとする
会えたらうれしいけれど混乱する

あなたの不在がわたしをやるせなくさせるように
あなたの存在がわたしをやりきれなくさせるように
わたしの不在はあなたに何をもたらしているのだろう
わたしの存在はあなたに何をもたらしているのだろう

わたしに会えたり会えなかったりすることで
あなたの心はどんなふうに動くのだろう
勝手な願いだけど 会えたらよろこんでほしい
会えなかったらがっかりしてほしい

ほんとは会えても会えなくても
あたたかなものをあげたい
ほんとはそんなにいろいろしてくれなくてもいい
すこしでも近くにいられればそれでいい

次に会えるときまでの時間と心の隙間
声も笑顔も足音も忘れてしまわないうちに
あなたの不在に慣れてしまわないうちに

会えたらほっとする
会えないときには あなたの不在を見つめている
遠い足音を聴くように

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手をはなす午後

もうだいぶ前に起こった
春分の日の前日の出来事のせいで
3月はいつも記憶とわたしの意志が混濁する

同じひとの夢を何度も見たり
たびたび思い浮かぶ面影は
誰かの記憶なのかわたしの会いたい という
意志なのか もはやなんだかわからない

そんな3月 遠近で
人事異動のニュースが飛び交い
駅の広告 朝思い浮かんだ遠くの知人
縁があるんだかないんだか とひとりごちながら
歩く通勤の道 そんな意識の隙間に
電光掲示のニュースのように
よぎっていくひとの残像

忘れることはできる
抑圧することもできる
なにも起こらなかったふりをすることも できる

できないことはひとつだけ
なにもなかったと 記憶を消去することだけが
何年かけても できなかった
会わなかったことにはできない
揺さぶられたわたしの感情とともに
面影はいつも記憶のどこかには あるから

それでも その記憶から 手をはなす
左手で握りしめたかった 手とその幻のあたたかさ
あのときの桜の花の色 すこし皮肉に上がる口角と
無邪気なまなざしで構成されていた笑顔

3月の午後 そっと手をはなす 記憶から
よぎっていく気配が流れ去るのを
遠くで見つめるように

手をはなして
あたたかな生者のいる現実の世界へ
わたしを待つひとのいるほうへ
つめたい指先をあたためてあげよう

今日の午後 はなした手はまだ
宙ぶらりんで 軽くて さみしい
ずっと抱えていた荷物を置いて
すこしぼんやり まどろんだら

虚空に手をのばそう
星に届くくらいに

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ご縁とタイミング

仕事柄 またそれ以外でも
気づくと口にしていることば

ご縁とタイミング

なんだってそうじゃないですか?と
言うのはかんたん
なにかとなにかを
誰かと誰かを結びつける力
それは ご縁とタイミング

自力で何もかも と
力んでいた時期もあった
あおられるように 引き寄せられて
ずっとこれでよかったのか と
悔やんでいた日々もあった

絶対の 唯一無二の解があるわけではなし
さりとて そう さりとて
すべてに関して これで良かったのです と
言い切ってしまうのは
何かを切り捨てている気がして
結論は ない ないまま

夕焼けを見に川まで歩く
風が強い まだ肌寒いね
それでもそこかしこに 咲き始めた木の花
頬を赤く染めて おおきなバッグを持って
河川敷での何かの練習から帰路につく男子たち

いつか写真を撮ったポイント
お寺のある路地 氏神様
銀杏の大木 ブルーとオレンジに染まる 空

この町に住みはじめて二年弱の月日が降り積もる
引っ越したいな という久しい願い
心もとなく 気持ちがゆれる
いままで後ろ髪ひかれるたびに
席を立って振返らないように生きてきた
それは自覚があるからだ
人一倍忘れることが下手だということの

ご縁とタイミング
ふっとおおきな力に掬い上げられ
ふっと降ろされるようにこの町にやってきた
これからどこに向かうのだろう
そこには誰の そして どんな力が
配剤が働くのだろう

そして わたしはどこに向かいたいのだろう

夢の断片に 何気ない会話のきれはしに
思いがけない出来事の背後に
あらわれるもの

夜明けを 波を 待つように
春の訪れを待つように
全身で その気配を 兆しを
底から浮かび上がるものを求めている

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メッセージ

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080223_21090001

今日の東京には春一番が吹いた そんな中
西のrokoさんから届いた包みを開く
ありがとうございます
すてきな心づくしの品の数々

写真を撮って わあいつから使おうかなと
眺め 晩ご飯のあとのデザートに と
茉莉花茶をいれて
いただいたチョコレートの小箱をあけたら
ふたの裏に2行のことば


扉をたたく勇気を出せば、
悩みは消えているはず。


ああ そうだ そうだった
そのへんの電柱からでも 犬からでも学べるんだよ と
中学生のときに言われたことを思い出す
叡智はチョコレートのふたの裏にもあらわれる
それは彼方から届いたメッセージ

勇気ってふりしぼらなくても出せるのだ
えいっ とジャンプするみたいに
怖がっててもいいんだ
怖くないふりをすることはない

それは今日の 風の強い昼間の出来事

わたしはきみの心の扉をたたく
まだ開けたくなければそれでもかまわない
気が向いたら にっこり顔を出してね
わたしはここにいるから

食べかけのチョコレート ふたをして
明日に思いをめぐらせる
よき一日になるように
西の街にも この街にも あたたかな風が吹くように

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Simon says

そのあとに続ける言葉どおりの
動きをしなくちゃいけないゲーム

なんでもはできないよね
しないよね
そんなことはないのかな
命令はすきじゃないよ
頼まれたらするのかな

ジャンプしたり 歌ったり 
きみがうごくとおりにうごいたり

それならできるね 簡単だね

泣きまねをしたり 
いそいでコーラを飲んだり
空を見上げたり

難しいのはなんだろう?

信じたり
愛したり
ゆるしたり
気づかったり

いつもしたいのに
Simon says

そんな気のないそぶりをしたり
乗り気のしない約束に出かけたり
あんまりすきじゃないCDを聴き続けたり
すきでもないひととデートしたり

どうでもいいことばかり得意になって
かんじんのことばをいいあぐねて

Simon says じゃあうまくやったら?

誰かのものまねなんて もうたくさん
Simon saysも もうおしまい

じゃあなにをしようか?
きみと一緒になにをしようか?

そこからはじめましょう もういちど

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まともじゃなくても

満ちていく月
ほころびはじめた紅梅
真っ白に積もる雪

写真なら切り取れる そこだけ

桜の花びらが散りきった後には虫が
墓所の裏手には枯れ落ちた花が積まれ
21時すぎの電車内にはどこからか奇声が

バロックの語源はどうやら いびつな真珠 とか

インドの宵に深く沈むように薫るジャスミンの花のレイ
傍らで道路に眠るひと ひと ひと

うつくしいものと腐り朽ち果ててゆくものの境はどこにある?

何がまともで何がまともじゃないの?
どこまでが嘘でどこから信じればいいの?

昨日と今日の振る舞いの落差に
永続しないものごとの様相に
強制されてもどうしても乗り気がしない事柄に
結実しない思いの行く先の不確かさに

ふと溜息をつきかける その隙
一瞬だけ確かに視線が交錯して
わたしはわたしがひとり
邯鄲の夢をみていたわけではないことを知る

わたしがまともかどうかなんて誰が知るのだろう
まともじゃなくても
あなたは視線の先にいて
わたしたちはこうして生きている

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分水嶺

step
踏み出してはじめて知ること
どこに行きたいのか
誰の声に誘われたのか

step
足がふと前に動いてしまい
誰かがそうっと背中を押して
気づいたら そこにいた

振返ればそこはさっき越えた分水嶺
もう戻れない
向き直って目をやれば はるかに望むのは
水平線 それとも 強い風にあおられて
砕け飛び散る波の飛沫

いつか振りほどいたあたたかな手も
懐かしい面影も
分水嶺の向こう側に置いてきた

静かに響く音に耳をすませて
いまは ひとりで 波を待つ

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ぼやけてる視界

コンタクトレンズを忘れて出かけた
ちぇっ 気づいたのはもう戻れないタイミング
仕事中はいつもの眼鏡だから問題はないけど
そそくさと電車に乗り 道衣と袴に着替えて
眼鏡をはずしたら そこは 視力0.1と乱視の世界

なにもかもおぼろに見える
笑顔もシルエットも なにもかも
いつも視覚に依存してるから
ぐっと一歩も二歩も踏み込まないと
たいせつなアドバイスは聴き取れないし
まなざしの感じもよく見えない

よく見えないけど たいせつなことを言われて
何度も何度も繰り返し稽古して
やさしくておっかない先輩が
なごませようとかけてくれたひとことが胸に響いて

すべて終わってひとりの夜の駅
眼鏡をかけたけど あいかわらず世界はぼやけてるような
そんな残像のなかで
視覚じゃないどこかで受信した
今宵のやさしい時間と たいせつな何かを
たしかに受け止めて 雨の道を歩く

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春を待つ

ことしの冬は久々に寒い
こどもの頃の感じ
肌にぴしぴし冷気がしみ通って
空の青さもひときわだ

寒さにうずくまって
しっぽをまるめるようにして
体温の高い誰かのとなりで
ぬくぬくしていたい ような気分

それとはまるで別に
ほんとうに必要なものだけを
残して すべて手放して
せいせいとして で なにが起こるの?と
さっぱり前を見つめたい気持ちが交錯する

昨日模様替えを始めた部屋は底冷えがして
ことのほか広く
お酒や映画に耽溺してそのまま眠ってしまう
幾人かのひとのことを思う

それくらい闇と静けさと寒さは さみしい
こんなにひとりで生きていけないなんて
真冬にタイツもはかずに駆け回っていた
こどものこころには浮かびもしなかった 感情

埋まらない隙間はそのままに
超えられない距離もそのままに
静かにそっと 夜の底を見つめてみる
あたたかな柚子茶と 白く立ちのぼる息

いまこのときも いくつもの星が燃え落ちて
あかんぼうは生まれ 傍らで滅していく肉体
潮が満ち引き 月は欠け ふたたび満ちる
冬の最中に

わたしたちは春を待つ こころに描くは
風に散りゆく桜
わきたつような新緑 そして
陽射しのまぶしさに目を細める あのひとの笑顔

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面影

会った時間と回数と
まるで比例しない
こころの底にすとん とおちてきた
意外なひとの面影

遠くの街に暮らすそのひとのことを
わたしは懐かしむほどに知らない
それでも浮かぶシルエット 身体の線

膨大な記憶の中から
ランダムに呼び覚まされた
面影 その映像 一瞬の

虹をくぐって
いくつもの川を超えて
夜を走ってたどり着くあの街のどこかに
そのひとはいて
川べりのちいさな風の強い町に
いまわたしはいる

透明な予感 確かな質感
距離も時間もただそこにあり
わたしは静かに胸の中に浮かんだ面影を眺め
勝手に元気だろうと 信じてる

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kokoro

こころの底で なにかが静かに動く
闇の中で
朝の光の中で

誰かによりかかりたいわたし
誰かを探して
走り出したいわたし
涙するわたし
馬鹿笑いしてるわたし

両義的ですらない
でたらめな 生というもの

時に突然終りを迎え
時に刹那の中に永遠を見る

幾重もの偶然に導かれ父祖の地を踏み
いたずらな偶然に誘われて
見たこともない景色にたどり着く

こころの底で なにかが静かに動いて
時が流れ出し
あなたが笑った
わたしはしあわせな気持ちでそれを眺めた

なにひとつ約束はなく
過去も未来も不確かで それでもこの一瞬に
すべてがある そんな気持ちにおそわれて

こころの底で なにかが静かに動いて
崩れ砕ける波を
伸びゆく夏草を
意識の内に見る

世界とわたしと飛ぶ鳥と海
青と白だけの視界に射す光の オレンジと黄金
吹き抜ける風が
こころの底の なにかを静かに 揺さぶっていった

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さりとて

今日も地球はまわっており
世界は終わらずにそこにある

完璧な色調で日は暮れてゆき
闇と北風が窓の外 しんしんと
冷たくなる足先
ふさがった傷

さりとて 去りがたいなにかが漂い
最後の挨拶をしたげな気配
きみの名はなんだろう
記憶 それとも思い出
遠い日の情景の断片
懐かしいひとの輪郭

忘れてしまうことはせつない
それでもすでに思い出せないという形で
刻々となにかは損なわれ そして
なにかが新たに流れ込み生成されていく

名付け得ぬものはそのまま
笑ってお別れを
昨日と今日を架橋するもの
昨日と今日を峻別するもの
その境界線の上で 
スカートをすこしつまんでお別れの挨拶
きみもわたしも 自分の場所に還り
いとしくもままならない日常がはじまるのです

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God Only Knows

だってわからない

この世にひとりきりならきっと何も迷わない
好き勝手に何かを食べて でたらめに生きているだろう
残念ながらわたしの中には秩序はない

秩序はひととひとの間にありそうだ
美意識なんて 
たったひとりの地上で持ちつづける自信なんかない

ほんとはききたい
これでいいかな
今朝のコーヒーは美味しかったかな
ほんとは同意したい 同意してほしい
さっきのあれ なんかへんだね
道端の猫はかわいかったね

街にはつめたい雨が降り
傘を忘れたわたしはすこし濡れながら歩き考える

おとなになってからのほうが
なんだか弱くなってしまったみたいだ
怖いものなんてなかった あのころの蛮勇はいったい何?
誰の思惑もはねとばして生きていた
いざとなったら 自分なんてどうなってもいいと思っていた

残念ながらもうできない
そんなふうに思い切れない
弱さと困惑を抱え込み
さらに弱くてややこしいひとをいとしいと思うわたしは
すこしだけ途方に暮れるけど次の瞬間にこう思う

複雑でよくわからない
自分の気持ちですら行き場を見失い
おとなになっても傘を忘れて降られて ひとりで

God Only Knows

で 何でしたっけ
気を取り直して約束の場所へ歩を進める
割り切れないやりきれない行き場の見当たらない思いを
位置づけも意味付けもしきれない出来事の帰趨を
わかるようでわからず 掴んだ瞬間にすり抜ける不確かな
関係性を 思いを まなざしを 笑顔と邪険さを

すこしだけわかったことはひとつ
この寄せて返すような思い 出来事とひとに揺さぶられ
泣いたり笑ったり
涙をぬぐって 一夜明けて気を取り直して
さあ と靴をはいて玄関を出て行くその繰り返し
日常 生きてあること

それがすべて
あとは God Only Knows

そんなに悪いようにはならないって
笑い飛ばすのだ

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旅の支度

部屋から少しずつものが消えてゆく
捨てたり あげたり
どうしても要るものだけ買い足して

年始に実家でもらってきた食材もすこしずつ消えていく

ひどく気に入っていたコーヒーカップが欠けた
そのまま 別のカップを使っている
代わりを買おうとして 思いとどまる
いまはいらない 欠けは欠けのままでいい

大きなリュックにもなる鞄を買った
長い旅の予定はひとつもない
それでも どこにも行かなくても
日常に風穴を空けて
意識はどこかへさまよっている

ひとつずつものが消えていき
一緒に滞っていた記憶も消えていく

ままならなかったあのときの愛情
もう終わっていたと思ってばかりいたけれど
わたしの片手はまだ切れ端を握りしめていたようで
ものを捨てはじめたら 残滓が突然流れ出した
ふとあのころの映像がよみがえっても
過去はただ過去としてそこにあり
いまたいせつなこの日常との間に
わたしは確かに往還不可能な線をひいた

いまがほんとうのさよなら
愛情もものも流れていけばいい
すべてはフロー 流れの中にあるのだから
長い長い眠りから醒めるように
凍り付いていた胸の奥の箱をそっと開けるように

そして新しい旅に出よう
もっと身軽になって

そんな支度の最中

さようなら
いま最後の糸をほどいて
すべてをそっと水面に浮かべるように
手をひらいて 確かに別れを告げて
時が満ちて 南風が吹いて
旅のはじまりのその時を 待つ 1月の夜

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最初はすべてはじめてのこと

あけましておめでとうございます
って もう遅いのですが
2008年 新しい年は経験したことのない未知の世界
明日起こることもわからない

ほんとうに 最初はすべてはじめてのこと
自転車の補助輪がとれたり
泳げるようになったり
はたまた
コーヒーにお砂糖とミルクを入れずに飲めるようになったり

最初はすべてはじめてのこと

今年最初のこの日記を書きあぐね
(年賀状すら書きあぐねている SNSの日記は気楽に書けるのに)
何か写真を?と思いをめぐらせるうちに
お正月休みは終わり 稽古ははじまり 仕事もはじまって
街には気の早い春の予感すらあって すっかり出遅れて

闇の中で猫が鳴く 今夜の東京はすこしあたたか
新月の夜は一層暗く
すっかりシャッターが降りた商店街を抜ける帰路
小1時間ほど前に起こったはじめてのことを
すこしだけ反芻してみながら おろしたての靴で歩く

出来事が起こった瞬間は他のことに気をとられていて
そのまま短い会話は流れていったのだけれど
はじめてかけられた言葉は
ただの些細なひとこと そしてマジックワード 
この先何度も口にされるかもしれないけれど
いちばん最初の瞬間の記憶を
いつまでも肩の数センチ先あたりに
あたたかなオレンジ色の風船のように
ぽっかり浮かべておきたい

そうして
すこし遠い未来のどこかでこの日のことを
いっしょに懐かしく思い返す日がくればいい

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際まで 深く

ぎりぎりの言葉
心にささる
痛みと傷
ケロイドのように残るもの残らないもの

悪意の有無
愛のあるなし

切実さ タイミング
はかって投げられた球
ただいたずらにかけた言葉だったのか
身をよじって切り裂くように発されたものだったのか
真意の謎は解けないまま

振返ることは無意味だ

あなたとふたり 不在の波打ち際
この世の果てのような場所
季節のない 彼岸と此岸の際
この世にただふたりしかいないような
打ち捨てられた世界で

心のぎりぎりの 際まで 深く
深く
ことばが生まれて死ぬ場所で
ふたり 何も語れずに 立ち尽くし
見上げた空の色 それが

きっと 最期の景色

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まなざし

かのひとが まっすぐに前を見ているそのときには
気づかれないでその横顔を眺めることができる

逆にわたしがなにかをいっしんに見つめているときに
かのひとがわたしを見ているのかどうか は わからない
わからない わからないけれど
視線を意識したら目をあげられなくて
結局わからず

視界の中で笑っているのが見えた
その表情を笑いながらそっと見ていた
まなざしは交差しそうで交差せず
伏せる視線の残像だけが かすかに触れてまた離れる

冬の逆光のまぶしい光の中では
そのまなざしの行方は乱反射して見えない
見えない 見えないけれど
ひとことだけ交わした会話
すこしだけ上がる口角

お互いの向かう方向へ 別れ
振返って背中を眺める
すこしずつ遠ざかる
いつもあともうすこし と思うけれど
叶ったためしがなく
上の空で別の話に相づちを打つ

そっと思いを断ち切ったわたしの
背中を例えば かのひとが振返って見ていたり
するのかどうか それもまたわからない

わからないけれど 次に会うときには
かのひとのまなざしの先に立って
すこしは笑っていられるように

願いが叶うまでの時間に焦れて
わたしが投げ出してしまう前に

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最期の景色

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生まれたときに最初に見えたもの なんて
「仮面の告白」じゃないんだから
おぼえているわけもなく

それじゃあいちばん最期に見る景色は?

まだ知らないし きっと選べない
ふらりと立ちくらみを起こして視界が暗くなる
そんな記憶とは似て非なるものかもしれないし
わたしはまだ何も知りはしない それなのに

週末に川べりで見た景色
西日の黄金色 空のうすいブルー
ターナーの絵のような色調の光の中で
犬が跳ね こどもたちは遊び
ひとびとは北風の中を行き過ぎる

わたしの両脇を冬の風が吹き抜ける

まるで最期の1日みたいに見える 目の前の景色
ふいに目が潤んで視界がぐらりと揺れる それは一瞬のこと

映画のシーンのようにいまこのとき 写真に留めた瞬間
一緒に川べりにいたひとたち すべての生きとし生けるものへ
感じた衝動的な気持ち
いまが最期のとき であるような幻影に心揺さぶられ

新しい幕 でも地続きのいとしい日常
また生きはじめ この感覚を心身のどこかに刻み
あのひとのいるすこし先の未来のほうへ
ひどく懐かしい未来のほうへ
舵を切るように きびすをかえして家路を急ぐ

最期に 名残を惜しむように この景色を
幻の町のように網膜に留め
もう振返らず 枯れ葉の舞う道を 急ぐ

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もう一度

もう一度あの瞬間を
再現したい
もう一度 という 妄執

あなたもわたしも1秒前とは異なる位相で
1秒後の未来に向かって投げ込まれる

すべてはフローの中にあり
それでも身体はすべてを記憶し
意識の底にはもう触れることのできない
何かが降り積もっている

もう一度見たい と思う 笑顔
これから会うあなたの笑顔は昨日と似て非なるもの

それでも存在する 懐かしさ という感情

もう一度 去り際の時間がのびて
1秒でも長く その笑顔を見ていたい という
これもきっと妄執

そんなものを糧にしてきっとわたしたちは生きている

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すこしだけクリスマス

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用事があってひとり陽が落ちた後の銀座の街を歩く
人ごみ 新しくオープンしたいろいろなビル
街のイルミネーション

ついでにツリーを撮ろうと思ってデジカメを持って出たのに
充電切れか 電源が入らない
気の早い初詣のような人の流れに急かされて
携帯で写真を撮ってみる

その前の忘れ物をしたような出来事と
その後の気の張る用事の間で宙ぶらりん
ついそのへんの人に訊いてしまいそうになる

お買い物ってそんなに楽しいですか
外食ってそんなに楽しいですか

これは軽い八つ当たり
wrong placeとは言わないけれど
銀座って東京の中ではそれでもましな場所だと
思うけど

いたい場所じゃなくて一緒にいたいひともいないから
心の中でぶつぶつ言っているだけ

それでも たとえばApple storeの秀逸なディスプレイ
おもちゃの兵隊さん?
ああこれ 見せたいな あのひとやあのひとに
と思って 二度目に通ったらさっきまで続いていた
記念撮影が終わってて すっと空いたスペースで
ぱちり と写真を撮る

すこしだけクリスマスのおすそわけ

すこしだけ早く 昨日もらった気がした
プレゼントはもの じゃなくて
そのひとの気配と笑顔とやさしい気持ちと
まなざし かけてくれた言葉

じゃあわたしはなにを贈ろう
笑顔と冗談となにかあたたかなもの?

まだクリスマスまで間があるから 宿題だ
ツリーも撮りきれなかったらからね
充電して あたたかな上着を着て もう一度
街を歩きましょう

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しかたがない

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すべて思い通りになる と思っていたのは
ただのこどもの感慨
しかたがない
しかたがない

ひとりで立ったら
病むのも貧しいのも胸が痛いのも
しかたがない
誰のせいにもできない

しかたがない

それを知るきっかけは
たとえばだいすきなひとが手からすり抜けて
どこか遠くへ行ってしまう そんな出来事

しかたがない
しかたがない

弱いこの手では どうにもできない

けれど知る
そのことを耐え忍べる力が自分にあるということ
世界は広く 無限に宙はひろがっていて
頬の涙はいつかは乾き
数日のちにはわたしは笑ってミルクを飲んでいるだろう

やるせない
うつむいてやりすごす ままならない日々も
至福に満ちて世界が微笑みかけてくるように思われる日も

等しく呼吸してわたしは生きていて
あなたとの距離は縮まらない
それでも

しかたがない

うつむいてほほえんで足元を眺める

しかたがない
だけど

生まれてきてよかったと
あなたの笑顔を見ることができてよかったと

限られた時間しかないけど
しかたがない

わたしが永遠におぼえていよう
誰にも頼まれてないけど
何もかも

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走って会いに行って

なんと単調で単純なイメージ
でもひとつだけ
浮かぶとしたらこのシンプルでベタで
格好悪いかもしれないイメージ

全力で走る 誰か見ていたとしても
あなた以外は何の関係もないから

途中で何か落とすかもね
転ぶかもね ポケットの中で
何か音を立てるかもね

それでも誰かが見ていたとしても
あなた以外は何の関係もないから

自意識などいらない
植物や動物のように ただ生きたい
ただそこに行きたい
あなたがいるその場所に行きたい
XとYで座標軸のどこかにあらわされる または
あらわすことのできない この時空のどこかにいる

あなたに会いたい

息を切らして
走って会いに行って
邪険にされても 包み込まれるような笑顔に包まれても
どちらでもいい
ただ
あなたに 走って会いに行く
その極北のような地点にたち現れる
景色とあなたの表情をこの目に焼き付けたい

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スキップ


いいことがあると心も身体も
スキップしているような気分になる
スキップ
風をきって 頬を髪がなでて
風景が飛びすさって

空には雲 路地の猫 世界から音が消えて
わたしは静かに振りかえる

そこには懐かしい笑顔があればいい

ひとりきりで生まれてきて
なぜまだ懐かしむものが残っているのだろう
記憶をすべて失ったら
いったい世界はどんな風に見えるのだろう

いとしいひとの視線を感じながら
目を伏せてまるで別の星にいるようなそぶり
または
どうしても届かない思い うまく届けられない気持ち

からまる視線 交差しない帰路 いつ会えるかわからない
または
まっすぐに見つめて進んだ先に あなたはそのとき絶対存在する
という 確信

錯綜する意識をスキップ
不正確な予測もスキップ

受け止められない未来などやってこないと信じて
明日へ一歩 スキップで進む

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気の早いクリスマス


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会社の近くの気の早いクリスマスツリー
こどもの頃と違って ホワイトクリスマスなんて
もう久しく見ていない

懐かしのクリスマス
憧れのアイスクリームケーキ
悩んで買ったプレゼント交換
骨付きのチキンが近所の肉屋さんに並び
バタークリームのブッシュ ド ノエル
フランス語だなんてかけらも知らなかった

すこしおとなになれば普通の日
バイトして仕事して 急ぐ帰路では
ケーキを売るおねえさんや
サンタに扮している売り子さんの姿
まだ仕事が終わらないんだね

星がよく見えないほどの地上のイルミネーション
暖かな部屋の灯り きらめくショッピングモール

とおいとおい昔に とおいところで あるひとが産まれた日

今はあらゆるものが消費されていく濁流のような日々の中の
稼ぎ時 プレゼントには何がほしい?

それでも静かにカードが行き交い
遠くの友やなかなか会えない家族は
暖かな場所で元気に過ごしているだろうか と 思う

気の早いグリーティング
普通で特別な一日
他の日と同じように あなたは元気ですか?
メリークリスマス 季節の挨拶
緑と赤と黄金の氾濫のなかで
このときも あなたが笑顔であるように 願います

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頬に触れる


少しずつ寒くなってきたから
マフラー姿で頬を真っ赤に染めている
主に女子 を街で目にする

うつむいていたり
車窓を眺めるともなく眺めながら
何かヘッドホンで音楽を聴いていたり
一心不乱に携帯でメールを打っていたり

もうじきカメラを持って街を歩こう と
思っているのだけれど
そこかしこにはクリスマスツリーがきらめいて
季節がかたかたと進んでいく

温暖化しているというね
冬でも素足にスカートで 薄着で駆け回っては
風邪をひいた こどもの頃の空は高く空気は冷たく
冬は底冷えして寒いものだった

その名残か 豪雪地帯に住んでいるわけではなし
冬は寒くていいのです
マフラーも帽子も手袋もなしで ああ肌寒いな と
見上げる空にぱりん と凍りそうな月 そんな季節

わたしは昔から平熱が高くて手も肉まんみたいに
春夏秋冬 ぼてっとほかほかしている

好きなひとの頬の線は 冬には鋭角に美しくみえる
そっと頬に触れたら
汗や涙を拭うように
笑顔を永遠に留めおけるよう 願うように

頬に触れる 一日の最後に 出会ったその時に

一瞬だけ時間も北の風も止まったかのような
幻をみて また かたかた 時間が流れるのだろう

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非力なわたしのちいさな手


というには語弊がある 実際には
けっこう厚みがあって骨太で力もある
こどもの頃から重いものを持ったり
なにかしんどいときには歯をくいしばって
どうにかするものだと思っていた

頼り方がわからなかった

ほんとにこどもの頃に遠足で水筒を忘れて
途方に暮れて泣いてたらお茶を分けてもらったり
ということはあったけど

最近ようやく開かない壜をひとに頼んで開けてもらうことや
わからないので教えてください ということが
ようやく 今頃ようやく 出来てみたりして

大丈夫です と後先考えずに言ってしまう癖はそのまま
幸い大きな怪我とかはしないのでどうにかなっている
この齢まで生きてみてようやく気がついた
ものすごくいろいろなひとの手に守られているということ

庇護されてはいけないのだと
自分の力だけで生きなくてはいけないのだと
いつどうしてそんな刷り込みを自分で自分にしたのか
眠れない夜に羊を数えて
いつこの家を出られるだろうとちいさい脳みそで
夢見てた頃 それとももっと前か後なのか

非力であることをおおもとに据えて生きていくことをはじめたら
弱さに 力を失っているひとに 心を閉ざしているひとに
もっとやわらかく接することができるだろうか

ただそこにいて 強く ではなく
そうっと肩に手を置くように
いままで幾度かそうしてきたように この先も
わたしも欲しているあたたかな手を
大きく力強くなくても そうっと かすかに触れるように

いまは自分の非力さ ちいささ に賭けてみる
弱くてちっぽけな存在として眺める空は
きっと青く美しい 例え雨が降っても ひとりでも
また歩き始められるように
そっとポケットに非力でちいさな手を差し入れて

わたしがぐるぐる悩んで焦って涙しても
世界は変わらずにそこにあるから
憂いを 悲しみを そっと手放して
持ち重りのする懸念もそこにそっと置いて
手は空にして 手ぶらで また ここから はじめから

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愛しているって

どう言うのでしょう
「愛」というwordなしに言ってごらんと
むかしあるひとに言われて思案した

そのときはなんと言うことにしたんだったかな
あなたと会えてほんとうに良かったです だったか
でもこれは同時に さようなら を告げるためにひねり出した言葉
(結局さようならはこの時ではなくずうっと後にやってきた)

茂木健一郎さんの少し前のブログに

>I love youの日本語訳を
>「月がキレイですね」
>としたのは夏目漱石である。

と ありました

去年あるひとに あ 月がきれいですね と
上段のくだりを全く知らないまま口にした
だって綺麗な月だったから

愛とも恋とも違っても 一緒に奇麗なものを眺めたら幸せだ
綺麗じゃないものだって 一緒に眺められたら幸せだ
それが何かの朽ち果てる瞬間だったとしても

どうやって伝えてみようか
傍らの手をぎゅうっと握るのか
瞳をまっすぐに見つめるのか
頬を寄せてささやくのか

あなたを愛しているんだと
軽やかに冗談のように自意識を捨てて
何とも似ていないそぶりでそっけなく手のひらを差し出すように

あなたを愛しているんだと
永遠でも唯一無二でもない
不確かなこのわたしの有限の今生の生のその一瞬の
不確かででも一瞬かつ永遠の このひとときに
生まれ存在する感情

何をも約束しない 何をも担保しない
行き過ぎて移り変わる刻一刻の時の流れの中で
それでも会ってしまったので

さて どう言うのでしょう?
わたしがあなたを愛している という そのことを
どんな風に どんな顔で

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ポルカドット 2

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布を買った まっしろな地にポルカドット
水玉が散る 選びに選んだ 水玉の大きさと色
チューインガムみたいな ミントみたいな
五月の早朝みたいな 水玉
すこしプラスティックな感じ
水色〜ターコイズと黄みどり

二辺を縫って風呂敷にするだけ
水をとおしてよみがえらせる
水の中の水玉

ポルカドット いまは秋
スキップ 高い空 冷えた空気が襟と袖からしのびこみ
退屈な車窓から眺める植え込みには金木犀
栗色のなめらかなベルベットを手の甲でなぜるように
首を傾げて見送る 黄色い帽子をかぶったこどもたち

この季節のことをずっとおぼえている?
それとも忘れてしまう?
夏には夏の終りを惜しみ
冬には春の訪れを待つ

秋には秋の別れ

ポルカドット スキップして 季節をやり過ごし
行き過ぎて 揺れるスカートの裾と
飛び去る鳩 西日に影が差して

みんなひとつずつ 歳をとる

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寒さがやるせなさを

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この間友人の舞台を観に行った
開演前に見る東京タワー
まだこのときは薄着でも夜の街を歩けた
駆け足で11月がやって来て 日はどんどん短くなる
癖で仕事中まくり上げてる袖を直して
部屋に戻ってしばらくすると背中がすうすうする

どこか窓を開けて風を通し それでも汗をかいた夏の日々

行き過ぎる 行き過ぎる そのスピード
加速してまた戻り 秋を駆け抜けて行く

半袖の夏は無邪気な季節 無理も孤独も
やりすごして蹴飛ばして夕立に流れていくけれど
秋の深まり 寒さがしのび寄って 心の純度が高まる季節
コートの襟に頬を埋めて カフェオレの湯気に耽溺して
あたたかなもの 丸まって眠る猫や なめらかな背中の曲線
よりかかりたい気持ちを誘うような その温度

寒さがやるせなさを連れて来ると その先にあるのは
純白の光 そして雪 こごえる手を何であたためる?
寒さがつれてきたやるせなさ 訪れる渡り鳥のように
懐かしく新しい 今年のやるせなさが 吐く息の白さの中に 漂っている

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